
歯の情報 デンティスト・アイ
3.やむを得ずに歯を抜くことの重み
●抜かざるを得ないこともあるが…
治療して何年かたった歯が、痛みだすということがよくあります。診療すると、かぶせたり、大きくつめたりした歯の中が虫歯になって、歯がすっかりなくなっていたりします。歯が外から見てまったくないような場合ですと、歯を救う方法はほとんどありません。
歯を抜かずに救うためには、歯の根を骨から少し引き出して、そこに歯の土台をつくり、人工の歯をかぶせる方法をとります。そのためには、矯正か外科的な方法が必要で、治療完了まで3、4ヶ月もかかるなど、手間と時間をかけないと歯を救うことはできません。しかも、健康保険がきかないケースもあります。
この方法以外には、残った歯の根を抜くしかないのです。しかし、口の中の1本の歯を抜くということはどういうことでしょうか。
●お互いに支えあっている歯
歯は1本1本がバラバラに働いているのではありません。口の中の全体のバランスの上に、1本の歯の機能があるのです。歯と歯ぐき、隣り合う歯、噛み合う歯の面、こすれ合う歯の面とあごの関節、上下の歯のアーチ状の歯列などで、微妙なバランスがつくられて、はじめて歯の働きが機能します。
たとえば、町の中にあるアーチ状につくられた石橋、レンガ造りの入り口などを思い出して見てください。ひとつの石やレンガが抜けたら、いつ崩れるかもしれない危険な状態になるはずです。歯はあのアーチと同じです。虫歯や歯周病で1本の歯を抜くことは、実は1本の歯だけの問題ではすまなくなり、口の中全体のバランスが失われるということなのです。
●やはり歯を救えるうちに・・・
例えば、下の奥歯を1本抜いたとします。そのままにしていると、抜けた歯の奥の歯が倒れこんできたり、抜けた歯とかみ合っていた上の歯が、相手がいないので少し伸びてきたりして、食べ物がつまりやすく、さらにはあごの動きにも影響が出たりします。
このような噛み合わせに不都合が出てから治療を受けるとなると、動いてしまった歯を元にもどし、伸びてしまった噛み合う相手の上の歯まで治療しなければならなくなります。
抜いたあとすぐに歯を入れるにしても、歯のアーチを回復し、噛み合わせを維持するために両側の歯を土台にして、人工の歯をはめなければなりません。1本の虫歯を抜き補修するために、両側の歯がたとえ健康でも削られなければならなくなり、またその歯の状態によっては、神経を取らなくてはならないことにもなります。1本の歯を抜くことは、次々に大きなダメージを、歯全体に及ぼしていく始まりなのです。
「歯はなるべく抜かない」「抜かなければならない状態をつくらない」、少なくとも「歯を救えるうちに治療する」これだけは肝に命じておくことが必要です。