
歯の情報 デンティスト・アイ
2.何故歯を失う人が減らないの!?
毎年、日本では交通事故による死亡者が一万人を下回ることはありません。車社会のドイツでも、交通事故の多さでは、日本とたいして変わらなかった時期がありました。なんとか交通事故を減らそうと、日本もドイツもさまざまな工夫をしたのです。
日本は、交通規則を厳しくして、取り締まりに力を注ぎました。一方、ドイツは運転のマナーを徹底的に若者に教えたのです。
結果をどうでしょう。日本はいまだに交通事故の数を更新しており、厳しい罰則の効果は一向にあらわれません。ところが、ドイツでは交通事故が激減したのです。
かつて、ドイツも日本と同じように敗戦の廃墟の中から、工業に力を注いで復興を遂げました。ですから、比較されることの多い国ですが、国民性は非常に異なり、その違いはいろいろなところにあらわれています。その一例として交通事故に関していえば、日本では「なくすものではなく、取り締まるもの」として、考えられてきたのではないでしょうか。国民を信頼して自覚をうながすのではなく、「規則を破ったら罰金ですよ。」と脅かす方法がとられています。
それと同じことが、虫歯予防についてもいえます。日本の虫歯への取り組みは、学校検診にあらわれているように、虫歯は「なくすもの」ではなく「治療するもの」なのです。
その結果、たしかに虫歯の患者は減っています。しかし、それは虫歯にならなくなったのではなく、治療済みの歯が多いということなのです。
ヨーロッパの豊かな国では、現在、虫歯になる子供の数は激減しています。「虫歯がなぜできるのか」「虫歯を予防する効果的な方法はないか」「歯磨きに頼っているだけでは予防はできないが、どうすればよいのか」「国民の払う大切な税金で医療費をまかなうには、どうしても虫歯をなくすことが必要だ」・・・このように考えられたかどうかは別にして、明らかに虫歯をなくす努力が徹底され、社会的な常識になったということでしょう。
●歯には油断しがちな管理職[Aさんの場合(40代男性)]
Aさんは、知人に無理やり連れられて歯科医院へ来られました。会社では管理職で多忙、つきあいで毎夜、お酒を飲み、またヘビースモーカーです。しかも、高血圧や通風などの持病もあり、そちらの方は毎月検診を欠かしてはいないようでした。
ところが、歯はほとんどグラグラでした。診ると歯そのものは丈夫そうなのですが、ひどい歯周病にかかっていました。
本人も「もう入れ歯だ」と思いながらも、入れ歯にするには何ヶ月も歯抜けにならなければならないからと、一年ほど前から先延ばしにしていたという話でした。
企業もこのところ健康診断を社員に義務付けて生活習慣病の予防には熱心ですが、どうしてその中に歯科の検診を組み入れないのかとつくづく思います。もう半年早く受診していれば、歯を残すことができたのにと、歯科医として残念なところです。
●まさに、後悔さきにたたず
歯はなくさなければ、なくしたことのいたみを感じられないかもしれません。歯には、入れ歯という代わりがあり、人はそれに慣れていきます。歯をなくしたいたみを想像することは難しいようです。
歯がだんだん少なくなる、味覚や歯ざわりの感覚がなくなるという実感は、歯が健康な人には想像もできません。
先程のAさんは、上下で残せた歯は10本ほど、あとは全部抜かなければなりませんでした。ご希望どおり、1日で仮歯をいれて、1年かけて歯周病の治療をしました。
現在は入れ歯も入り、1ヶ月1回の歯ぐきの検診 をまじめに受けに来られますが、この手間・時間・お金そして労力を前もって知ることができたら、年に2度の予防のために検診は、どんなに楽なものだったかと思います。